9月に入って、芒(ススキ)の穂が目立つようになりました。
「モミの木」のホームページもワールドカップ直前の6月5日に公開してから、早3ヶ月。その間「おとりよせネット」や「マフィンネット」に紹介していただき、おそらく、ドイツのことにはあまり詳しくないお客さまにもご覧になっていただけていると思います。
そこで、他のページと重複する部分もありますが、改めて、「モミの木」とドイツのお菓子の説明をさせていただきます。
「モミの木」は、ドイツの家庭でふだんよく食されている自家製の焼菓子Kuchenのおいしさと、ドイツと言ってもあまりピンとこないお客さまに、私が知っているドイツの家庭の雰囲気とを紹介したい、と始めたお菓子と紅茶の店Teestube「テーシュトゥーベ」です。
ドイツのお菓子と言うと、本来はウィーンのホテルザッハーのスペシャリテでいまではウィーンならばどこにでもある、チョコレート生地にアプリコットのジャムを塗り全体をチョコレートでコーティングしたSacher-torteザッハートルテや、結婚式のお菓子の定番のようになったBaumkuchenバウムクーヘンが日本ではよく知られていますが、どちらもふだんのドイツのお茶の時間に登場するものではありません。
また、お菓子屋さんで売られているような、生クリームやくだもの、あるいはチョコレートなどでデコレーションされたお菓子のことを「トルテ」Torteといいますが、これもふだんのお茶のお菓子ではありません。家庭でも家族の誕生日などにはトルテを作りますが、ふだんはもっぱら、手早くできるKuchenなのです。
ドイツのドイツ人小学校で「日本のくらしや書道やそろばんなどの文化を紹介する」授業をするため、ドイツ人家庭で同じ釜の飯ならぬ同じオーヴンのKuchenを食して感激した私は、誰に頼まれたわけではないのに、より多くの方に「ドイツってビールにソーセージだけじゃないのよ!」、「ドイツのお菓子ってザッハートルテやバウムクーヘンだけじゃないのよ!」と言いたいがために、このサイトまでオープンしてしまったのです。
このため、「モミの木」で扱うのはすべてKuchen。カタカナ表記はすべて「クーヒェン」としていますが、チーズケーキのKaesekuchenをはじめ、Streuselkuchenなどドイツ語に縁のない方には、実際どう発音するのかという言葉が並んでいると思います。きょうはそのカタカナ表記の話です。
しばらく前になりますが、Kuchenのカタカナ表記は「クーヒェン」ではなく、「クーヘン」にすべきではというご指摘を受けました。
実は、この表記のご指摘は覚悟しておりましたので、「クーヒェン」としている理由をお話します。
理由は二つです。
ひとつには、Kuchenの〈che〉は日本語の「ヒェ」でもなく、「へ」には近いが、完全に「ヘ」ではないこと。
例えば、ゾーリンゲンの刃物メーカーのHenkelsの〈He〉は、ほとんど日本語の「ヘ」と同じ発音で「ヘンケルス」と表記できます。発音記号を表記できないので、説得力がありませんが、ドイツ語の発音記号もKuchenの〈che〉とHenkelsの〈He〉とは異なるのです。Kuchenの場合は、日本語の「ヘ」のように口先で「ヘ」と言うのではなく、のどの奥から息とともに「ヘ」という音を出すような発音です。
であれば、素直に「ヘ」と表記すべきかもしれませんが、「へ」の表記を避けたい理由があるためです。
むしろ、もうひとつの理由のほうが大きいのですが、おそらく、ドイツ語のKuchenという言葉を直接耳にしたことのない方は、日本語読みで発音なさるということ。カタカナ表記が「クーヘン」ならば、迷わず日本語の「ヘ」と発音なさるでしょう。そうなると致し方のないことですが、「クーヘン」というカタカナ表記が人によっては、「クウヘン」となる場合や、さらに「食うへん」、「食う変」となる場合もあります。私にそのように聞こえるだけならば問題はないのですが、なかには、どうしても「クーヘン」から「食う変」と想像してしまう方がいらっしゃると思うのです。
もし、私がKuchenを売る立場でなければ、そのままドイツ語読みで、発音表記に悩むこともなかったのですが、購入していただくためには、お客さまに「食う変」と連想されるような表記はできません。
これが「クーヒェン」としている大きな理由です。これならば、ドイツ語に縁のない方も、日本語の「ヘ」とは少し違うという意識が働き、場合によっては、怪我の功名で、ドイツ語のKuchenの発音にむしろ近くなることもあります。
要は「食う変」という連想を避けるためですが、知らない外国語を聞いて全く違うことを母国語で想像してしまう。これは、私たちだけでなく外国人の方もあるようです。
例えば、夏になると一度や二度はどなたも口になさる、国民的人気の飲み物がありますが、それを海外で日本と同じ名前で販売したところ、期待した結果が出なかった、と聞いたことがあります。実は、この話は高3のとき予備校の夏期講習の英語の先生に聞いたのですが、妙に印象に残っていました。
自分が小さいときから大好きなものが、名前ひとつで売れなかったなんて…と不思議に思っていると、『いくらおいしくても、英語で〈piss〉って言ったら、「おしっこ」だよ。そんなこと考えちゃう名前じゃね…。』
それが理由でした。
本当にあった話かわかりませんが、この話が忘れられず、私は、Kuchenが「食う変」にならないような表記にしています。購入してもらう立場でなければ、便宜上「クーヘン」でもかまいません。
なお、Kuchenの〈che〉は、のどの奥から息を吐き出すようにして、「ヘ」と発音します。
ご指摘後、辞書ではドイツ語の発音記号だけなので、手持ちの資料を調べたところ、ワールドカップのユニフォームのイラストがかわいくて購入していた、テレビのドイツ語会話のテキスト5月号がありました。
講師の保坂良子先生の説明を要約すると、a/o/u/au+chは「のどの奥を空気でこする感じのわりと強い音」で、「口先が閉じていたり、あまり開いていないと、日本語のハ、フ、ヘ、ホになってしま」うと注意されています。また、あくまで参考として「クーヘン」とカタカナ表記をされているようです。
いずれにせよ、Kuchenが「食う変」にならぬよう、ひとつひとつ大事に作っています。
ケーゼクーヒェン(チーズケーキ)については、「おとりよせネット」に召し上がった方のコメントがあります。ドイツのおばあちゃんの味のチーズケーキって?、 という方、http://www.otoriyose.netです。どうぞ、ご参考に。