吾亦紅と雲の話
西側の公園にも芒が目立ち始めました。
まだ8月なので少し早い気もしましたが、今週は吾亦紅(ワレモコウ)が主役です。
先日小石川の東大植物園で吾亦紅を見て以来、涼しくなったら飾りたいと思っていたのです。
去年も9月16日のコラムで、湘子(しょうし)先生の「どの雲の落とし子ならむ吾亦紅」の句とともに紹介しています。そのときはゴールデンレトリバーの毛のようなフェリカと合わせましたが、今年はまず吾亦紅そのものを楽しめるよう、主役を外しました。奥から、緑色の実を付けているノバラ、大きな赤い葉のドラセナ、キイチゴと白い小花をつけているアップルミントです。
吾亦紅は、秋の七草のひとつですが、元来、高原や山麓に咲く花。
室内に飾られたものしか知らないと、なかなか自生している姿が想像できず先の句の景も浮かばないかもしれません。しかし、まず信州など山の見える景色を想像し、自分の立っている場所に原っぱを置き、そのなかに吾亦紅をいくつか入れてみると、湘子先生の句の景が広がってくると思います。
なお、この句は、湘子先生が亡くなった後にまとめられた『てんてん』には残念ながら収録されていません。しかし、この句を読むと、小さなちぎれ雲を見つけて「おまえさん、どっから来たんだい?母雲はどれだい?」と呼びかけている先生の声が聞こえてくるような気がします。
また、先生には雲を詠んだ句がいくつもありますが、「浮雲はどこへも行くぞ鴉の子」(『神楽』収録)とともに、吾亦紅の句には、小さなものを慈しんでいる先生の姿が浮かんできます。
ところで、雲といえば、秋になると、小さな雲片がいくつも連なったいわし雲やひつじ雲が現れます。いわし雲は、さば雲あるいはうろこ雲とも呼ばれ、ひつじ雲よりもひとつひとつの雲片が小さく、高空に現れます。
フランス語では、ひつじ雲のような雲を「りんご雲」と言うのだそうです。27日の朝日新聞の歌壇にフランスの松浦のぶこさんという方の「夕空にポムポムポムとたのしげに薄くれないのりんご雲出づ」という歌が選に入っていました。
ドイツ語では、Schaefchenwolken シェーフヒェンヴォルケン。ただし、ひつじはひつじでもSchaefchenは子ひつじです。ドイツでは、庭のある家にはりんごの木がよくあり、非常に身近な存在ですが、りんご雲という言い方はしないようです。
いずれにしても楽しい名前です。しかし、まだ秋雨前線のせいでひつじ雲もいわし雲も目にしていません。秋天(しゅうてん)の野に咲く吾亦紅を思うのみです。