
最近よくランチについてのお問い合わせをいただきます。
直接電話でお問い合わせされる方には、このコラムが目に触れる機会も少ないかと思いますが、一応写真を撮りましたので、ご紹介しておきます。また、お電話のタイミングによっては、接客中であったり、まさにお菓子を作っている最中であったりで、思うように説明がいかないことも多々。第一お客さまからの電話を長引かせるのも問題ですので、こちらに説明をしておきます。
「モミの木」は、何度もふれたように、ドイツ語のTeestubeの名のとおり、お茶(紅茶)とお菓子とを楽しんでいただく場所です。
そもそも「モミの木」を始めたきっかけが、ドイツ人がふだん家で作って食べている、デコレーションのないお菓子Kuchenのおいしさに感動したこと。そのKuchenを日本ではあまり知られていないドイツ人の家庭の雰囲気のなかで、ぜひとも楽しんでもらおうと思ったのです。
私はドイツ(ハノーファー)のカトリックのドイツ人小学校での授業のためふたつのドイツ人家庭に滞在し、同じものを食べて暮らしていました。その2軒はどちらも学校の先生の家庭でしたが、非常に対照的でした。
最初に滞在したのは、昔ながらの典型的な、父親が家父長的な家庭で、子は親に意見が言えず、そのため親子の意思疎通もあまりできていないようでした。また、私も娘のようにかわいがってもらいましたが、よくDu musst ~.「~しないといけない」と言われて、少々窮屈な思いをしました。一方、2軒目の家庭は非常に「風通しよく」、親は考えをきちんと説明し、子の意見もしっかりと聞く、考えが違えば納得がいくよう道を見つけていくという、私にとっても非常に居心地のよい家庭でした。
おもしろいのは、ふたつの家庭の食事も非常に対照的だったことです。
最初の家庭では食事も、昔ながらのこってりボリュームのあるドイツ料理で、ブラウンソースを使った肉料理にじゃがいも、ザワークラウトや紫キャベツの付け合せが多かったのに対し、2軒目のハイディーとペーターのところでは、最初の家庭のような料理が出てくることはありませんでした。ドイツ料理といっても、ハムのパイ包み焼きやドイツ版ミネストローネともいうべき、小さく切った野菜やソーセージをコンソメで煮込んだアイントプフというスープなど軽めのものです。
よく、海外で暮らすとごはんや味噌汁がなくてつらいという話や、ドイツのライ麦パンはどうしても好きになれないなどという話を聞きます。もともとごはんよりもパン、魚よりも肉というタイプの私は、ドイツ人と同じものを食べていても和食が恋しくなるということはなく、むしろ脂質の少ないあっさりした和食ではドイツの冬は乗り切れないとさえ思い、ライ麦パンの酸味がチーズやソーセージの味を引き立てることや、その腹持ちのよさには感心しましたが、最初の家庭の重い肉料理と野菜の少ない食事にはまいってしまいました。
そんなときハイディーの家に移って、重苦しい家庭の雰囲気とブラウンソースの重い肉料理から解放されて、ほっとしたものです。おまけにハイディーは料理上手で、彼女のラザニアやアプフェルシュトゥルーデルは絶品。料理やお菓子だけでなく、食器使いや室内のコーディネートも手本にしたくなるような暮らしでした。
このハイディーのところで食べたお菓子が日本に帰ってからも忘れられず、自分でも作ってみようとやり始めたのですが、料理は必ずしも懐かしいものではなく、作ってみる気にはならなかったのです。つまり、量と脂質たっぷりのドイツ料理は、東京のような冬も暖かいところに住んでいても食べたくなるような料理ではない、と言えるかもしれません。
ところで、ドイツ料理というとソーセージやハンバーグのイメージが定着しているかもしれませんが、必ずしも家庭の食卓にのぼるものではありません。
街の屋台でよく見かける焼いたソーセージは、家庭ではあまり食べないと思います。もちろん個々の家庭の好みがありますので、一概に言えません。また、ドイツは地方色豊かなうえ、カトリックかプロテスタントかで食に対する姿勢も違います。しかし、油で台所が汚れるのを嫌うのは、その違いをこえて、ドイツ人女性に共通していると思います。
また、ハンバーグも私が滞在した家庭では出されたことはありませんでした。たぶん1人分ずつ作るよりも、大きい塊肉を使って煮込んだり、ローストした方が作るうえでも好まれるのです。実際、家庭では料理も大皿に並べたものを銘々が取るというスタイルで、予め個々の皿に盛って出すということはないようです。
実のところ、ドイツ滞在中に家庭で食べる機会のなかったハンバーグやビーフストロガノフを出すのは自分でもどうかと思っていますが、比較的作る手間がかからず、苦手な方が少ない料理ということで、定番にしています。
付け合せは、ドイツでは主食のじゃがいも料理とゆでたインゲンを溶かしバターであえたものやザワークラウトなどが定番です。じゃがいも料理には、皮付きのまま圧力鍋でゆでただけのものから、私も好きなじゃがいものピューレやポム・フリットなどさまざまありますが、「モミの木」ではパンかごはんをつけるので、じゃがいもは必ずしもつけません。
なお、写真のにんじんはバターと塩で味付けしたもので、甘いグラッセではありません。ドイツ人は、生のにんじんが大好きで、お昼に持参した生のにんじん1本をナイフで皮をむいてそのままぼりぼりと食べてしまうほど。塩も何もつけずにバナナでも食べるようにまるごと、です。ハイディーは、千切りのにんじんにレモンとコーンを加えたサラダをよく作ってくれましたが、レモンがにんじんの癖を消し、甘みを引き出した一品です。
写真のセット(メインの料理、パンまたはごはん、サラダ、食後に「甘いもの」と紅茶または珈琲)で、税込1,160円です。「甘いもの」は、夏はアイスクリームやゼリーになることも多く、必ずしもKuchenではありません。Kuchenの場合は、通常パウンドケーキのケーキのことが多く、ケーキセットのものとは別のものです。悪しからず、ご了承くださいませ。
また、ハンバーグやビーフストロガノフといった簡単なものですが、料理もアイスクリーム以外の「甘いもの」もすべて私1人で作るため、ご予約をお願いしています。何しろレストラン、いわゆるカフェでもないので、お菓子と飲み物以外は用意していないのです。できるだけ、前日の午前中、遅くとも午後までにご連絡をお願いいたします。
ご面倒ですが、よろしくお願いいたします。
ドイツの食事ならびに「モミの木」のランチについては、2/5、2/26、3/23のコラムでもふれています。また、ビーフストロガノフは06/11/26に写真があります。そちらもぜひ!