
きょう12月24日月曜のクリスマス・イヴはキリスト教国のドイツでは平日、祝日ではありませんが、明日あさってのクリスマス当日は2日間全国的な祝日です。
なぜドイツにはクリスマスの祝日が2日間あって、しかもそれがわざわざ「全国的な」祝日というのかと訝しく思われるかもしれません。たぶん、そう思われる方にとっては、クリスマスの意味が大半がキリスト教信者のドイツ人とは違うのです。また、なぜわざわざ全国的な祝日かと言うと、連邦制のドイツでは祝日は州ごとに決めるため、カトリックが多い州とプロテスタントが多い州では祝日が異なることが多いのです。しかし、クリスマスは祝い方が異なるもののどちらにも共通かつ最大の行事のため、全国的に例外なく祝日とされているのです。
日本では、クリスマスと言うと、おそらく「サンタさんがやってくる日」、「いい子にしていたらイヴにサンタさんからプレゼントをもらえる日」と思っていらっしゃる方が多いと思います。
しかし、キリスト教国のドイツでは、クリスマスは、イエス生誕を祝う日。ドイツ語ではWeihnachtenヴァイナハテンと言い、本来「聖夜」の意ですが、英語のChristmasクリスマスの原義は「キリストのミサ」。それを考えると、同じ名前の25日にサンタさんが来ると言って待っているのも妙な気がします。
おそらく、サンタクロースの夢物語を楽しんでいるひとには、イエス生誕のことなど何の関係もなく、考えてみたこともないかもしれません。しかし、クリスマスの前のアドヴェントの時期、ドイツを旅し、クリスマスに関わるもろもろの品を売るヴァイナハツマルクトを訪れたり、シュトレンを口にするひとには、その信仰がなくとも、本来のクリスマスの意に思いを馳せていただけたらと思うのです。
ヴァイナハツマルクトは、アドヴェント(=クリスマスの4つ前の日曜から始まる、物心ともに準備する期間)の第1日曜前の木曜日や金曜日から始まるところが多く、だいたい街の中心の教会や市庁舎の前の広場とその近くで開かれます。よく旅行のパンフレットにはクリスマスマーケットなどと紹介されていますが、私にはどうもマーケットの語感が、ヴァイナハツマルクトとはしっくり来ません。もしドイツ語の単語が難しいならば、「クリスマスの市」としたほうがずっとその雰囲気を表していると思います。
日本でも、昔ながらの酉の市・歳の市があり、露店が並んで熊手などの縁起物や正月飾りなどが売られるほか、食べ物の屋台も出て賑わいます。一見すると、売られている品々や山小屋風の作りの露店が立ち並ぶ景は違いますが、市の性格は、ヴァイナハツマルクトにも似たものがあるのです。たしかに英語では「市」の意味もあるようですが、日本語でマーケットと言うと、ふつうスーパーないしは株式市場の場合が多く、「市」の意味で使われることがありません。そのせいでどうもぴんと来ないのです。カタカナを使いたがる旅行のチラシでは致し方ないのかもしれませんが、原語を避けるのであれば、わざわざ英語を使わず「市」という言葉を大事にしたいと思います。
このヴァイナハツマルクトには、リース、クリスマスツリーにするトウヒ(本物のモミの木はまれだと思います)やツリーの飾り、ろうそくなどクリスマス用品を売る店のほか、食器類やテーブルクロスなどの日用品の店もあります。そのほか、シュトレンなどお菓子の店やお菓子に使うスパイスを扱う店、体を温めてくれるグリューヴァインや焼ソーセージの屋台も必ずあります。そのスパイスの香りは、ヴァイナハツマルクトの匂いと言ってもいいほど、市全体に立ち込めているのです。
この匂いと寒さには誰も逆らえず、ヴァイナハツマルクトに来たら一度は、グリューヴァインのマグカップを両手で握りしめ、ふうふうしながらグリューヴァインを啜るのです。グリューヴァインは、赤ワインにレモン、シナモン、クローヴを入れて温め、砂糖で味を調えたもの。特にクリスマスの飲み物というわけではありませんが、寒いヴァイナハツマルクトには欠かせないものです。
写真は、2003年のグリューヴァインのマグカップ。左がハノーファー、真ん中のブーツ型がニュルンベルク、右の紺地に白い図柄がローテンブルク。以前は使い捨て容器だったのが、陶器のデポジット制のカップになり、飲み終わって戻せばカップの代金が戻ってくるようになりました。しかし、街ごとに毎年絵柄も変わるので、後生大事に持ち帰ったというわけです。
ちなみに、グリューヴァインは寒い時期には家庭で作って飲むこともあるようで、ティーバック型の袋にスパイスが詰められたものも市販されています。また、ハノーファーの歴史博物館の脇の広場では、最近どういうわけかフィンランド風のものが売られ、食べ物もサーモンなどがありましたが、そこの屋台のグリューヴァインにはブルーベリーが入っているそうです。
なお、昨年も記したとおり、南部のカトリックの地域ならば、ヴァイナハツマルクトのどこかに、イエスさまご生誕のお祝いの場面を立像で表したクリッペがあります。親子連れなどの人垣を探せば、見つけられます。信仰が違うと、なぜこれほどクリスマスが大事なのか、ぴんと来ないかもしれません。しかし、クリッペを見つめる子どもたちの眼差しやそれを一生懸命に説明している母親の姿を見れば、どれほど大事なものかがわかります。
もしいつか行く機会があれば、クリッペを忘れずに。グリューヴァインなど名前を忘れても必ず引っかかるものですが、クリッペはぜひ心に留めておいてください。
クリッペについては、2006年12月25日のコラムをどうぞ。